髪に現れる、心の「黄色信号」

ちょっとしたお話

大きな病気をした後とか、なんとなく体調が優れないのが長く続いたとき。
それから、出産を終えて少し経ったあと。

こういうことの影響って、実はすごく髪の毛に出やすいんです。

よく「ストレスのせいですね」なんて一言で片付けられたりもしますけど、ストレスって、体にガタが来る前にまずメンタルにきますよね。

で、それが意外な形で髪の毛に関わってくることがあります。

そのひとつが「抜毛症(ばつもうしょう)」です。

これは、髪が勝手に抜けちゃう脱毛症とは違います。

無意識に手が伸びて抜いてしまったり、
自分で自分を止められなかったり。

不安だったりイライラしたりするのがスイッチになって、つい抜いてしまうんです。

だいたい、自分の手が届きやすい場所の髪を抜くことが多いみたいですが、まつ毛とか、まゆ毛、体の毛を抜く人もいるそうです。

白髪を何本かまとめて抜いたことがある人なら、少しは感覚がわかるんじゃないでしょうか。
抜き終わったあと、なんとなーくスッキリした感じ。

その一時的な「スッキリ」で不安を紛らわせているうちに、それが癖になっちゃう。

決して珍しいことじゃないんですけど、でも根本的な解決にはならないし、今度は「髪が薄くなった」っていう新しい悩みが生まれてしまう。

そうすると、分け目あたりに短い毛がいっぱい出てくるんです。いわゆる「アホ毛」みたいな、生まれたての短い髪がツンツンと。

本人は「自分をコントロールできないダメな人間だ」って引け目を感じていたりします。ましてや美容室って、すぐ耳元に他人がいる場所ですから、なかなか言い出せないものです。

だからこそ、私たち美容師が「あれ?」と気づいたとき、無闇に問い詰めないこと。
そっと「察してあげる」ことも、大切な仕事だと思うんです。

原因は別のところにあるから、美容室で「抜いちゃダメですよ」なんて言ったところで治るわけじゃありません。

でも、この癖はずっと続くわけじゃない。
分け目を変えて目立たなくしたり、スタイリング剤でうまくカバーしたりして、それとなく寄り添ってあげてほしいなと思います。

……それともうひとつ、似たような事例があります。

カットをしていて、
「もっと梳いてください」を何度も何度も繰り返す方。
あるいは、左右のバランスがいつまでも整わない気がして、ある一箇所だけをずっと気にし続けてしまう方。

何度も繰り返してしまう、
どうしても気になって仕方がない。

こういう「強迫観念」が髪に出てしまう場合もあります。心の「黄色信号」ですね。

抜毛症とも似ているんですが、こっちは「几帳面すぎる」とか「思い込みが激しい」くらいの差にしか見えないこともあって、ちょっと分かりにくいかもしれません。

でも、普通に接していれば、どことなく「違和感」があるはずです。

ここで美容師は、絶対に「お客さんの言いなり」になってはいけません。
ヘアスタイルを壊さないためにも、プロとして「ここから先はダメ」っていう線引きをしてあげることが、おもいやりです。

納得いくまで応えたら、「もう大丈夫ですよ」って繰り返し、丁寧に教えてあげてください。

強迫観念って、何度も襲ってきます。繰り返すのが前提なんです。
だから「さっきも言いましたよね」なんて冷たいことは言わず、二度でも三度でも、言い方を変えて「もう大丈夫」だと伝えてあげる。

以前、こんなお客様がいました。
一度カットしたのに、一日に三回も四回も来ちゃうんです。

帰ったと思ったら連絡があって、またお店に来て……の繰り返し。

お店に来てもらっても、気になるところを確認して話を聞くだけで、実際はほとんど何もしません。

もちろん料金のことは考えますし、合間でLINEを送ってフォローもしました。
「切ったふり」をすることもありました。

ただ、一度区切りがついたはずなのに、一週間くらいして他のお店に行っちゃって、そこでムチャクチャにされて、また直しに来る。
……もう、見ていて本当に辛い、無間地獄です。

でもこういう時、私は本人よりも、言われるがままに手を出しちゃう美容師の無責任さに腹が立ちます。

「お客さんの要望だから」

そう言えば聞こえはいいけど、ただの思考停止です。技術者として恥ずかしくないのか、と。

そこまで収拾がつかなくなる前に、普通はわかるはずなんです。
できるだけ早い段階で「違和感」に気づくこと。

それが早ければ、状況が変わるきっかけになるかもしれません。

もちろん、安易な深入りは禁物です。
病院での治療が必要な場合だってありますから。

要は、接客業としての最低限のスキル。
表面的な言葉だけを聞くんじゃなくて、その裏にあるものをちゃんと汲み取ること。

美容師がみんなこれを意識できれば、もっと誰かの役に立てるんじゃないかな、と思うんです。

これって、カウンセリングだけじゃなく、友達や家族との付き合いでも同じですよね。

「大人と子どもの違い」を聞かれたとき、私はこう答えるようにしています。

他人のこともちゃんと考えられる人が、大人です。